朝のニュースを見てびっくりしました。
博多駅付近の道路が,大きく陥没しています。
幸い,いまのところ,怪我人などはいないとのことです。
本件とは異なり,仮に死傷者などが出た場合は,誰を相手に訴えることになるのでしょうか。
福岡の道路陥没事故については,まだ詳細が分かりませんので,あくまで仮定の話ですが,例えば,市営地下鉄の工事のために陥没事故が発生して,そのために死傷者などが出た場合,市に責任が認められるのであれば,単純な民事訴訟ではなくて,国家賠償法に基づく損害賠償請求ということになるでしょう。
行政を相手とする,行政訴訟です。
国家賠償法第1条は,公権力の行使による公務員の故意又は過失の不法行為による損害について,国または公共団体が賠償責任を負うと定められています。
地下鉄の工事が「公権力の行使」にあたるか,というのは違和感があるところですが,権力作用だけでなく,純粋な私経済作用と国家賠償法第2条によって救済されるものを除いては,すべての公行政作用が「公権力の行使」にあたると考えるのが裁判所の立場なので,おそらく地下鉄工事も含まれることになろうかと思います。
なお,弁護士としては少し違和感を覚えるのですが,弁護士会を相手として訴えられた損害賠償訴訟も国家賠償法に基づく損害賠償請求となります(東京地判昭和55年6月18日)。
さて,このような大きな損害を引き起こした場合,議論になるのは,
道路陥没を直接引き起こしたなんらかの不法行為→道路陥没・・
→立入禁止→営業損害・・
→会社倒産で無職に
→家族がバラバラに
→離婚→・・・・
のように,不法行為とどこまでの損害について賠償責任を負うのか,という相当因果関係の問題です。
さすがに,離婚などは関係ない,となりそうです。
営業損害と一口に言っても,先月分の売上と同等の売上を損害と言えるのか,
お得意様を逃してしまった事は営業損害になるのか,
など難しい問題を含んでいます。
さらに,最大の関心事が
道路陥没を直接引き起こしたなんらかの不法行為が誰によって起こされたのか?
という点です。
福岡市に責任があるのか,直接の工事を担当した企業に責任があるのか?
立入禁止のために営業に損害が生じた場合,純粋に立入禁止をした警察などの行政を訴えることはできるのでしょうか。
「立入禁止」は「公権力の行使」にあたるでしょう。
しかし,立入禁止は,人々の身体の安全のため必要不可欠と思われますから,「故意又は過失の不法行為」にあたらないことは明らかであるように思われます。
ですから,立入禁止で営業が妨害されたとしても国家賠償法に基づく損害賠償はできないという結論になります。
では,国家が適法な公権力の行使によって国民の権利を侵害した場合,なんら補償が得られないのでしょうか。
適法な公権力の行使によって加えられた財産上の特別の犠牲に対しての補償を,損失補償といいます。
損失補償には,国家賠償法のような一般的な法律はありません。
消防法,原子力基本法などの個別の法律が損失補償に関する規定を置いているに過ぎません。
そこで,個別の法律がない場合は,法律ではなく,憲法に基づいて直接補償を請求できると考えられています。
・・・というのが,行政法上の考え方ですが,しかし,とはいえ,実際の実務で直面する事案では,簡単に補償が認められるものではありません。
行政訴訟は,いくつか独特のルールがあるので,弁護士としては,行政を相手取って訴訟を遂行するのはなかなか大変です。
福岡パシフィック法律事務所でも,これまでにいくつかの行政訴訟を御依頼いただきました。
仮に,具体的に御依頼なさる場合には,どのような手続になるのか,どの程度の勝訴見込があるのかなど,じっくりと法律相談で話をさせていただけたらと思います。
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