自分の所有している山林の立木が台風で倒れ被害を与えた場合,損害賠償責任を負うのでしょうか。
今年の夏は,福岡でも豪雨などのために土砂崩れが起こるなどして,福岡パシフィック法律事務所にも損害賠償責任についての問い合わせの電話が複数ありました。
そんな中で,弁護士としては違和感を持つのが,
「Yahoo知恵袋には,台風で相手に損害を与えても損害賠償しなくて良いって書いてあるから,そうなんですよね?」
というようなご質問です。
本当にそのように書いてあるのかなと思って,教えてもらったページを見ると,回答者が,
「台風で相手に損害を与えても損害賠償しなくて良い,とどこかで書いてあるのを見ました」
などと無責任に回答しているものが出てきました。
さて,法律の考え方を簡単に整理しましょう。
台風に関わらず,わざと相手に損害を与えたり,過失で相手に損害をあたえた場合には損害賠償責任が生じます。
過失がない場合には損害賠償責任はありません。
台風で相手に損害を与えるのはわざとではないですから,台風の損害賠償責任で考えるべきは,基本的には過失があるかないかという話になります。
過失という言葉は,みなさんも耳にしたことがあると思いますが,ざっくり言うと「うっかりして」「ミスして」ぐらいの意味で考えられているようですが,
これを法的に言うと,予見可能性があるのに予見義務に違反し,結果回避可能性があるのに結果回避義務に違反するという,義務違反のことです。
少々,分かりにくいかもしれませんね。
台風との関係で,あえて分かり易く言うと,
「損害を与えるようなことになると,普通ならあらかじめ予想できたのに,それを防ぐ対策や手立てをしなかった」
ということになります。
ですので,台風なら損害賠償責任がない,とか台風でも損害賠償責任があるというような二者択一の議論はそもそも間違っていて,そのような損害を与えることになると,普通なら予想できたか,という点がポイントとなるのです。
誰も予想できないような強烈な台風が来て損害が生じたとしても,そもそも誰も予想できないような強烈な台風のせいであれば,過失はありません。
したがって損害賠償責任が生じません。
ところが台風と名の付くものが来れば,必ず損害賠償責任を負わないわけではないのです。
日本にはほぼ毎年のように台風がきます。
例年通りの規模のような,通常の人の通常の感覚であれば危ないな,というような状態を放置しておいて,案の定,例年通りの台風が来て土砂崩れを起こしたり,所有する山林の立木が近隣に被害を及ぼしたりした場合は,過失があるので損害賠償責任が生じるわけです。
なお,土地の工作物(建物,自転車置き場の屋根など)の場合は,工作物責任という別の責任に関する規定ががあります。
工作物の場合は,設置と保存,すなわち,きちんと設置してきちんと安全に維持されていたかがポイントとなります。
最近の台風のニュースで屋根付きの駐輪場が自転車ごと吹き飛んでいくシーンを見ました。
それだけ台風の勢いが強烈だったということだと思いますので,仮にきちんと設置して安全に維持されていたにも関わらず,それを上回る台風がきてしまったということでしたら,責任を負わないという結論もありうるかと思います。
法的責任がないときのお見舞金の相場は?
以上のようにご説明をすると,
「なるほど,今回は自分には責任がないというのは分かった。けれども,自分の物がぶつかるなどして隣近所に被害が出ているのだし,隣近所とは仲良くしたいのでお見舞金程度は支払ったほうが良いと思うが,そのときの相場はいくらなのでしょうか」
というような質問をされる方がいます。
法律家にこのような質問をしても,法律家としては
「責任がない以上1円も支払う必要はない」
としか答えようがありません。
「でも,ご近所さんとの付き合いがあるし・・・」
ということでしたら,ご近所さんが納得して下さる金額をお渡しにならざるを得ないとしか答えようがありません。
もはや,法律でどうこう言える問題ではないからです。
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