福岡パシフィック法律事務所では,不動産に関する事件を多数取り扱っております。
今回は,騒音についてご紹介したいと思います。
相談内容
自宅に隣接するビル内に居酒屋があります。
この居酒屋の営業時間中,ずっと低周波音によるとみられる振動と騒音が続くため,
生活に支障があり,睡眠も妨げられております。
なんとかならないでしょうか。
回答
低周波騒音について
低周波騒音と呼ばれるものは、100ヘルツ以下の音をいい,中でも4~50ヘルツで苦情が多数発生します。
主に,冷蔵庫、冷凍庫、製氷機などが発信源となっており,
その被害としては、本件と同様、睡眠の妨げになることが多く、
それが内臓疾患あるいは神経症に進展することも少なくありません。
ところが低周波騒音については一般の騒音と異なり、まだ公的な規制はありません。
一応,学者が実験を繰り返して受任できる音量の目安を定めております。
それによると,
周波数が50ヘルツだと受任できる音量は45デシベルまで,
63ヘルツだと40デシベル
80ヘルツだと35デシベル
100ヘルツだと30デシベル
といった具合です。
過去の裁判例によりますと、受忍できる音の強さを10デシベル程上回っていて
損害賠償が認められたという判決がでております。
本件においても、睡眠不足に至っていることから、この基準を上回っている可能性もあるでしょう。
解決方法
まず,話し合いで解決すればそれに越したことはありませんが、
調停や訴訟など第3者を交えての方法をとることが考えられます。
ただ、低周波騒音被害の実情を、訴訟で結果を出せるほどに証拠化するのは極めて難しいです。
この種の被害を研究している大学の研究室に依頼して、
騒音を測定してもらうというのも一方法です。
なお民間の業者にも、この種の騒音測定をしてくれるところがあります。
つぎに、問題となっている騒音から相談者さんが受けた損害を、金額にして列挙しておくことです。
睡眠薬の購入費用や、病院の治療費、入院費などがこれにあたります。
もっとも、睡眠不足や精神的な問題は、低周波騒音だけを原因と特定することが難しいです。
「低周波騒音だけ」が原因だということは、
その人は、職場でも、プライベートでも、家族間でも、経済的にも、健康面でも、なんらストレスがないのに、
低周波騒音だけが原因で、治療が必要になったと特定する作業になるからです。
低周波騒音が出ている、ということを立証するよりも、「それ以外のストレスは全て否定される」という立証のほうが難しいです。
そして、もっとも難しい問題は、
大学の研究室へ依頼するようなレベルの困難性をもち、
弁護士の立証も極めて難しい案件であり、
費用が高額になる可能性があるにも関わらず、
費用対効果という意味で、一般的な理解を得られにくいという点があります。
価格は、その人に価値があると思えれば、その金額で取引されるものです。
腕時計に興味がない人には理解できなくても、
その腕時計に1000万円の価値があると思って1000万円を支払う人もいるわけです。
したがって、高額な費用をかけても、低周波騒音を法的に処理したいという人にとっては
価値があると言えそうなものですが、
経験上、一般的には、低周波騒音を法的に解決する可能性と、それにかけても良いと思う費用のバランスが悪いように感じております。
たとえば、生命の危機であり、手術にかける費用と、命が助かる可能性というようなものでしたら、バランスがとれていると思う人が多数かもしれませんが、
低周波騒音の法的解決可能性と、それにかける費用とのバランスで考えると、一般には受け入れがたいのかもしれません。
医療のように、弁護士費用も国民皆保険などで支えられると変わるかもしれませんね。