弁護士ブログ

「裁判上の和解」について

1 和解は仲直りではありません

仲直りのイメージ

和解はこのように仲直りのイメージがあるかもしれません

弁護士として訴訟を担当させて頂くと必ずと言ってよいほど「和解」についての話が裁判所から出されます。

このとき、「和解」という日本語の語感から、仲直りのようなイメージを持たれる方も多く、
「あんなやつとは和解できない!」
と感情的になられる方もいらっしゃいます。

あんなやつとは和解できないと怒る人

しかし裁判上で和解の話が出たら、これは仲直りなどのニュアンスは一切ないと思って頂けたほうがよいと考えています。

むしろ、場合によっては、裁判上の和解手続きで
「被告は、原告に対し一切連絡をしない」
とか
「原告の居住地の半径10km以内には近づかない」
など、仲直りどころか、むしろ原告と被告が絶縁状態となることを決めることすらあるのです。

絶縁状態

裁判上の和解は、仲直りをさせるのではなく民事訴訟法の条文で定められた司法上の手続きです。

裁判が始まって対席で主張を戦わせた場合の終了方法は、実質上、判決と和解の2つしかないと思っていただいても結構です。

2 判決

裁判手続きは、原則として白黒明確にすることを目標にします。
そのため、白黒明確にできることしか、裁判はできません。

裁判で白黒つける

そして、判決では、請求の趣旨に書いてあることしか判断できません。

訴えの趣旨とは、

  1.  被告は、原告に対し、金300万円を支払え
  2.  訴訟費用は被告らの負担とする

などと訴状の冒頭部分に書いてあるものを指します。

これが認められるか否かを判断するにあたり、根拠となる証拠がどの程度あるか、を判断します。
根拠となる証拠が不足していれば、その部分は認められません。
根拠となる証拠を確定するにあたり、多くの場合、当事者を法廷に出廷させ、いわゆる証人尋問などの尋問手続を戦わせる必要があります。

双方の言い分を聞いて裁判官が判断するので、双方の言い分のどの部分が認められるかわかりませんが、言い分の中身次第で、原告の主張の280万円までは認めようとか、250万円までは認めようとか、逆に100万円までしか認められないな、とか0円だ、とかなどの判断を判決書というのを作成して交付することになります。

判決には、次のような特徴があります。

  1.  尋問手続きなどを経ることが多く手続きが長期化し当事者の出廷などの面倒が増える
  2.  判決について不服があれば控訴ができ、控訴審がはじまる。控訴審で判決が出ても最高裁への上告までされることがある。
  3.  請求の趣旨に書いてあることしか解決できない

3 和解手続の特徴

判決手続のデメリットを解消するため、民事訴訟では判決の他に「裁判上の和解」という手続きを制定しました。

仲直りというニュアンスは全く無く、裁判所が主導して、判決と同様の効果をより簡易迅速柔軟にもたらす手続きです。

裁判所が「和解案」を書面で作成して、事前に当事者に確認をとるということもあり、この場合は、実質、裁判所が判決の内容を事前に明らかにしているのに近い状態かもしれません。

裁判上の和解は、判決のデメリットを以下のようにして回避しています。

  1.  多くの場合、尋問手続が不要である。尋問手続きをした後での和解も可能
  2.  和解は紛争を終局的に解決する手段であり控訴や異議申し立てはできない
  3.  「被告は、原告に対し一切連絡をしない」などの柔軟な条項を盛り込むことができる
  4.  仲直りではないが、逆に、その柔軟さ故に仲直り的な項目を入れることも可能。例えば「被告は原告に深く謝罪する」などを入れる。もっとも、本質的に仲直りを目指すというつもりで和解することは稀である。

4 法律用語とニュアンス

民事訴訟法は、判決しか解決方法がないとすると裁判が遅延し長期化しますので、このように簡易迅速柔軟な手続きを制定しております。

和解をしたからと言って、決して裁判官が原告と被告を仲直りさせてくれるというわけではありません。

裁判業務をしていて、一番、日本語のニュアンスと遠いのが「和解」という言葉でして、民事訴訟法で改正して「準判決」とか「簡易判決」とか「判断」とかなどに変更すれば良いのにと思うのですが、誰も改正しようと言いません。

ちなみに、もうひとつ私としては、「被告」という言葉も変更したらいいのにと思っています。

「被告」と異なり、「被告人」は、罪を犯したと疑われて裁判にかけられている人のことです。
罪を犯したと疑われている人を「被疑者」といい、被疑者が罪を犯した疑いが晴れずに裁判までかけられた状態が「被告人」となります。

これに対し、「被告」には罪を犯したというニュアンスは一切含まれていません。
マスコミなどは、面倒なのか「容疑者」という言葉をつかいますが、容疑者は法律の条文で規定された言葉ではありません。

被告と被告人ちがうの?

言葉のニュアンス難しい…

092-726-8429