
おかげさまで、福岡パシフィック法律事務所では滅多にありませんが、ごくまれに
「着手金無料で受任してほしい」
「成功したら報酬を高くしてもらってもいいから、完全成功報酬で受任してほしい」
というようなことをお尋ねになられる方もいらっしゃいます。
実際、弁護士における着手金無料や完全成功報酬というものはどう考えるべきなのでしょうか。
福岡パシフィック法律事務所では、原則として、着手金無料でのご依頼はお断りしています。
相談者さんとしても、
「お金を支払わないとは言っていない、ちゃんと結果に応じて支払う」
というおつもりなのは理解できますが、そもそも「結果に応じて支払う」というお気持ちの時点で、弁護士の取り組み方や弁護士側の気持ちとの乖離が大きく、ご依頼を受けた場合トラブルになる可能性があるからです。
そもそも、弁護士の仕事は、モノを作ったり、ホテルや運送業などの一定のサービスを提供するものではなく、個々のクライアント様のそれぞれのお困りごとを解決する役務の提供ですので、原則として同じような内容のものはありません。
運送業のように、運送すれば結果が当然に生じるものではなく、結果が生じないことも半分くらいの可能性であります。そういう意味では、結果を請け負う仕事ではなく、紛争解決にむけた過程、プロセスを依頼者様と一緒に伴走すること、そのものが依頼の中身ともいえましょう。
たとえば、入学試験の合格を目指すための家庭教師・個別指導や、少し前に流行したダイエットを目的としたパーソナルトレーナーを想像してみてください。
もし、ダイエットが成功した時だけジムの費用を支払えばよいなどの契約だとしたら、本気で困難に立ち向かう人がいるでしょうか。いままでの生活と変わらない生活をして、ジムに通わずに、結局ダイエットは成功しないという結論が見えています。
入学試験の合格に向けて、必要な情報や、困難については解説できますが、どこが分からないか、どこでつまづいているのかは生徒さん自身からのアクションがないと適切な個別指導は難しいでしょう。
弁護士が扱う紛争は、当事者が一番事案を理解しており、弁護士としては当事者から話を伺わないと、裁判所で主張することはできません。
そのためには一定程度、打ち合わせ回数が必要ですし、証拠の取り寄せも協力してもらう必要があります。
このような過程、プロセスを、一緒に二人三脚で伴走することが弁護士の業務なのです。
そして、なにより、ここが一番強調したいところなのですが、二人三脚で息を合わせて進んでいくからこそ、ゴールに近づくことができるのです。
裁判という意味でいえば、相手方との間で勝訴敗訴という結果を伴うことも当然ありますので、そうだとすると、相手方よりも、当方が、より息を合わせて、一歩一歩プロセスを進んで行くことで、より勝訴的な結果を望めるという側面もあります。
過程、プロセスが大切と申し上げておきながら、結局のところ、過程、プロセスが結果につながるとも言え、それは入学試験でもダイエットでも同じかもしれません。
「お金を支払わないとは言っていない、ちゃんと結果に応じて支払う」
というお気持ちの人は、総じて、打ち合わせや証拠の収集について、当事者自身の尽力が必要であるという点において覚悟が全くない場合が見られます。
過程、プロセスは弁護士任せということが多いです。
それでも、結果についてだけは、依頼者様が決断力を発揮してくだされば、まだ良いのですが、過程、プロセスを任せっきりなので、裁判所から妥当な和解案が提案されても、決断できず、それが自分にとってプラスなのか、もっとプラスになる結果があるのではないか、などと決断を先延ばしされるパターンも多いです。
弁護士側としても、当初から依頼者の求める結果が当然に生じることが分かり切った事件であれば、受任できなくもないのですが、
そうでないと、当事者の覚悟が足りない以上、どこで解決すればよいのか、当事者自身が理解できていなかったりしますので、そうだとすると当事者が納得できる結果が生じる可能性が極めて低いということが言えます。
このような事件を完全成功報酬という契約で受けると、それは、報酬なしでタダ働きをします、と言っているのと同じ意味になってしまいます。
逆に、弁護士が完全成功報酬で受任すると言う場合は、安易にラッキーなどと思わずに、少し立ち止まって、受任後の事件の進め方について、よく弁護士にお尋ねになられたほうがよいかもしれません。
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